知人弁護士「牧村」から調査に関する相談が文次郎の携帯電話で掛かってきた。
牧村弁護士によると、年商数百億を売上げる某企業「A社」で男性営業社員による横領の疑いがあり、それの調査の相談であった。
後日、牧村弁護士事務所にて、某企業の紳士的な取締役男性「武田」と名刺を交わし、同案件の内容を詳しく聞いた。
2カ月前、「A社」の内部通報により、ある専門営業部の請求書金額が不自然だということから、同専門営業部には伏せて社内調査が始まった。
社内調査で、専門分野の取引先の2社「Ⅹ社」と「Z社」だけが異常な請求金額を示していた。
その取引先の担当をしているのは20年間営業職に従事していた40代後半男性「内田」で、担当している営業先も多かった。
内田はここ数年、派手な生活を送っていると噂になっており、六本木のキャバクラや銀座によく出向いている。
数名の同僚や部下が内田に連れられてそういった場所に行っており、キャバクラやクラブの女の子との会話から常連だと分かった。
「A社」からの依頼は、内田が取引先2社に訪問して帰宅するまでの行動調査、取引先担当者との金の受渡しの確認であった。
文次郎はその場で概算の見積金額を伝えると、武田はあっさりと承諾した。
その金額で見積書と契約書を「A社」武田宛に送ってくれとの事であったが、文次郎は少し後悔した。この案件は難易度が高いが時間数が少ない為、見積金額が安かったのだ。
しかし、仕方がない。久々に面白そうな案件を前に自戒した。
次の日には契約書と見積書を個人名で「A社」武田宛てに送った。
数日後、「A社」の稟議が通り、契約が締結された。
牧村弁護士と確認を行い、まず文次郎は内田の住居を調べる。
文次郎は世田谷区に在る内田自宅へ行き、住居表示と建物位置を確認、車輌「BMW」が車庫に駐車されている。
法務局へ行き、住宅地図から地番(※1)を確認、公図(※2)を取得。
地番から土地の登記簿謄本、その土地に建っている建物の登記簿謄本を取得した。
土地と建物の登記簿謄本から、現所有者は内田で前所有者から15年前に購入しており、その時に住宅ローンが4,500万円ほど組まれているが、1年前に完済している。
これは内田がこれまでの「A社」の年収だけでは支払いきれない状況証拠になりうる。
また、駐車されていた「BMW」は1年前に販売開始された新車で、中古車でも700万円は下らない車輌だ。
この情報は直ぐに牧村弁護士に伝えた。
横領事件 ~上編~ 終
※1;地番は住居表示とは違い、登記所がつける一筆の土地ごとの番号です。
この地番の登記簿に土地情報や所有者情報が記されています。
※2;公図は土地の境界が分かる簡易的な地図。
この物語は一部の事実を元にしたフィクションであり登場する人物、団体名等、名称は実在するものとは関係ありません。
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