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    ブログ (探偵の物語・探偵の仕事・その他)

    • 桜庭文次郎

    妻の直感、夫の鈍感

    最終更新: 2月13日

    2002年、ノーベル化学賞に日本人2人がダブル受賞した話題が持ちきりだったころ、今回の指令が下った。


    依頼者は大阪市内に住む50代女性、対象者は依頼者の夫で60歳建設会社の経営者である。



    指令書には、

    数カ月前から、夫(対象者)は携帯電話をトイレに行くときや風呂に入る時も脱衣所に持っていくようになる。

    依頼者が一緒に居るときにメールが来てもすぐには確認せず、後で確認するようである。

    勿論、携帯電話のロックはかかっており、依頼者が見ることは不可能であった。

    夫(対象者)は取引先の接待が多くなり、夜中の2時3時に帰宅することが増えていた。

    今から一カ月ほど前、夜中に夫(対象者)が携帯電話を置いたまま離れてトイレに行ったときに電話が着信、依頼者は何気なく携帯を見ると知らない名字のみの表示がされていた。

    依頼者は夫(対象者)に携帯電話の着信や自身の怪しい行動を問いただすと30代の女性と不倫していることが発覚、夫(対象者)は認めてしまったのだ。


    2週間後、夫(対象者)はその女性とは別れ、二度とその女性とは会わないと依頼者と約束していた。


    しかし、その1週間後、夫(対象者)は得意先と東京に出張が決まったからと報告を受ける。


    依頼者は、夫(対象者)は女性と旅行に出かけるのでは?…と女の感を働かせ、大阪市にある調査事務所へと相談に来たのだ。


    依頼者曰く、早朝対象者は車輌を使用して伊丹空港に間違いなく行くということで、現地にて待機することとなった。

    本来ならば対象者の車輌に発信機を取り付けて行動を監視するのだが、依頼者と担当相談員の中で決まった。


    当日、朝の6時、巽、イチ、文次郎は各航空会社のチェックインカウンター付近にて対象者を待つ。

    対象者の姿は数枚の写真でしか確認していないが、顔は面長、目つきは悪く口ひげを生やしており、髪の毛は刈上げのツンツンとした頭で白髪交じり、地黒なのか肌は焼けたように黒い。写真での見た目は本来の歳よりも若く見える。


    対象者の車輌に発信機を取り付けていれば現在地が判り、時間は気にならないのだが、文次郎は2時間以上も対象者が確認できないことに不安を覚え始める。



    ピンク色の派手なシャツに白のデニムパンツ、白のアウターを着た対象者が小さめのスーツケースを引きながらANAのチェックインカウンターに向かって歩いてくるのを確認する。


    文次郎は無線で、イチ、巽に連絡する。


    カウンターの数メートル手前で誰かを待っている様子である。


    数分後、茶髪のセミロング、デニムのパンツ、眉は細く整い目は大きな奇麗な顔立ちの30歳前後の女性が赤のスーツケースを引きながら対象者に近づく。


    対象者は女性に一言かわすとカウンターへと向かい、女性は後ろから付いていく。

    対象者は胸ポケットからチケットを取り出してカウンターへと出す。


    巽は対象者と女性の後につけてカウンターにて待ち、便名や行先を聞こうとするが確認が出来なかった。


    対象者と女性はカウンターに荷物を預けたのち、同空港施設の喫茶店へと入る。

    イチは対象者と女性を監視。


    文次郎と巽はANA出発便の確認を行う。

    対象者と女性が出発口の出発手荷物検査場を通過する仮定して、15分後~1時間後の便を確認すると10便近くがある。

    その内、対象者と女性が居る喫茶店付近の出発口から近い便は5便である。


    イチから無線が入り、対象者と女性が喫茶店を出て出発口に向かったと報告を受ける。


    対象者と女性は出発口の手荷物検査場を通過すると右方向へと歩いていく。


    右方向のゲートには直近2便しかないが、その中で一番近い便が大分行きであった。

    巽はANAのカウンターへ行き、搭乗案内前ギリギリであったが大分便のチケットを2枚クレジットカードで購入する。


    イチはお留守番である。


    大分便かどうかは不明であるが賭けである。

    この賭けに負ければここで調査は終了。


    文次郎と巽は財布とビデオカメラだけ入ったバックを手荷物検査に通すと大分便の搭乗案内が終了間近で、案内係の女性と一緒に走って大分便のボーディングブリッジを通過、機内へと入る。


    文次郎は奥の通路、巽は手前の通路を通り対象者と女性を確認していく。

    中間あたりの席で文次郎は巽の顔を見てホッと安堵の表情を浮かべる。

    対象者が荷物を上の棚に荷物を入れているのを確認したからだ。

    女性は隣の席で座っている。


    文次郎は対象者と女性の席から数列後ろの席へと座り、巽は後方の席へと着く。

    今から1時間はゆっくりできる。



    同便は大分空港に到着。

    シートベルトの脱着ビープ音が『ポーン』と流れると、即座に周辺でカチカチとシートベルトを外す音が鳴り、乗客が一斉に立ち上がる。


    文次郎は少しでも前に行こうとするが、既に通路は前の座席の乗客が立っている。前の席から順に降りていく。


    文次郎と巽は人を掻き分けて撮影しながら対象者と女性の後方に着ける。


    手荷物受取所にて対象者と女性は荷物が来るのを待つ。


    手荷物をピックアップすると対象者と女性は国内線到着口を出る。


    同空港内レンタカー案内所受付にて確認をしている様子。


    文次郎は先回りしてタクシーに乗車して待機し、運転手には身元を明かさず、これから男女が乗車するレンタカーを追ってほしいと伝える。

    50代のタクシーの運転手は「刑事さんですか?」と少し訛った喋りで聞いてくる。

    文次郎は「そんなようなもんですわ…」と適当に答える。


    両氏は空港出入口を出ると、某レンタカーの送迎車輌へと乗車する。


    巽は文次郎が乗車したタクシーに乗車、レンタカー送迎車輌を追跡する。


    対象者と女性は某レンタカー会社にて受付を行い、小型車輌のトランクに荷物を入れると同車輌に乗車する。


    文次郎が同レンタカー会社から少し離れた場所に停車していたタクシーへと帰ってくる。


    対象者が運転する車輌は一般有料道路を南西方面へと走行する。


    以前にも追跡を行ったことがあるのか、タクシー運転手は車輌との距離を空けて追跡を行う。

    タクシー運転手は「何処から来たんですか?」と空港から乗車した文次郎と巽に聞く。

    「大阪からです。」と文次郎は会話が苦手な巽を気遣い答える。

    文次郎はタクシー運転手に大分の観光名所や宿について会話の中で聞いていく。


    後部座席から巽は前方に見える対象者の運転する車輌をビデオカメラで撮影する。



    対象者が運転する車輌は「東九州自動車道」南方面へと走行。別府インターチェンジにて降りる。


    車輌は一般道に出ると北方面へと走行。


    車輌は観光名所である「別府地獄」付近の駐車場へと入庫する。


    女性は対象者の腕を取り、歩いていく。


    無論、こういった行動を撮影する事が我々にとって重要である。



    色々な温泉の源泉を廻り、温泉卵を食べる両氏を撮影していく。


    文次郎と巽は交代で撮影を行い、タクシーは対象車輌が確認出来る位置で待たせている。


    タクシーの料金メーターが上がっていく…


    タクシー運転手も文次郎と巽が警察の人間ではないことに気付いていた。

    「浮気調査ですか?」と運転手が聞く。

    「まあ、そんなもんですね…」と文次郎は言葉を濁す。

    「運転手さん、メーター少しの間下げられんですかね?…」と料金メーター気にする文次郎は交渉を試みるが、最近は会社の上司がうるさく、実績報告をしなければならないのでいい加減な報告が出来ないと言い断られる。


    料金メーターは3万円を優に超えている。

    文次郎は財布の中身を把握していたが巽のクレジットカードに頼ることにした。



    対象者と女性が車輌に乗車、別府市街へと向かう。



    定食屋駐車場に入庫して、遅い昼食を採るようである。


    文次郎は巽を定食屋付近に待機させ、タクシーで近くのコンビニにておにぎりなどの食料とお茶の買い出しをする。


    タクシー運転手にもおにぎりとお茶を手渡す。

    文次郎と巽は後部座席で定食屋の出入口を確認しながらおにぎりを食べる。

    タクシーの運転手はおにぎりを食べず、お茶だけを飲んでいた。

    タクシー内での飲食は禁止だったかもしれない…



    対象者と女性が定食屋を出ると、車輌に乗車する。


    車輌は高速道路を走行、湯布院方面へと向かっている様子。

    背の高いススキが風に揺れている景色が季節を感じさせる。


    「湯布院インター」を降りると、一般道を走行する。


    少し街を離れて山の方へと上がると、旅館へと入り駐車場に入庫する。


    老舗の旅館と思われたが、改装された綺麗な建物である。

    よく、旅館の入口などで見かける「○○様御一行」と書かれた看板は見当たらない。


    対象者と女性は荷物をトランクから降し、旅館へと入る。


    同旅館内はホテルのような造りで重厚感が漂う。

    入口を入り十数メートル先にフロントがあり、対象者と女性がチェックインを行っている。

    文次郎と巽は待合スペースの違う角度から撮影を行う。


    チェックインを終えて対象者と女性は仲居の先導に付いていく。



    巽が本部に連絡して状況を報告すると、一時待機となる。



    文次郎は想像していた。

    今日はこの旅館の温泉に入り、美味しい食事も食べれそう…

    最悪、この老舗旅館ではなくても近くの宿に宿泊し、朝の調査開始までゆっくりできるのでは…



    待機させていたタクシーに料金を確認すると、6万円に近い金額になっており、巽は自身のクレジットカードが限度額いっぱいでないことを祈った。

    タクシー運転手は最終的に合計金額の端数の数十円だけ値引いてくれた。

    文次郎はタクシー運転手にお礼を言いつつも、『数日分の売上上げているのに数十円の値引きかいな…』と思った。




    16時を過ぎ、本部から巽に連絡が入る。


    本部は依頼者に連絡して状況を報告、依頼者の指示で解除となる。


    文次郎の想像は打ち砕かれた。

    本部は調査を継続する方向で動いていたが、巽が他の調査があるので本日中に帰阪すると伝えたのだ。

    依頼者も対象者が女性と一緒に旅行に行き旅館に宿泊すると判明したため、十分な証拠を得たと思ったのだろう。



    文次郎よりも2つ年下のリーダーのの巽は優秀である。

    調査に対して妥協は許さず、準備も怠らない。

    他の調査員からも厚い信頼を置くが、「ド」が付くほどの真面目な性格で融通が利かないとも言われている。



    文次郎と巽は別のタクシーを呼び、急いで大分空港へと向かう。

    もうすでに辺りは暗くなっており、景色を観ることもできなかった。



    大分空港では大阪行きの航空チケットが取れない状況でキャンセル待ちをしてギリギリ入手した。


    伊丹空港に到着した文次郎と巽は、明朝6時現着の現場の確認をして、各自帰宅する。




    やはり、女性の直感は鋭い洞察力からくるもので、男性は嘘が下手な生き物だと文次郎はつくづく感じた…


    今頃、対象者は楽しく女性と過ごして夢心地に違いない。

    自宅へ帰宅したときの悪夢も想像できないまま…







    この物語は一部の事実を元にしたフィクションであり登場する人物、団体名等、名称は実在するものとは関係ありません。

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