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執筆者の写真桜庭文次郎

診えない地位と名声、家族…

更新日:2020年11月6日

文次郎は東京都港区新橋に事務所を構えていた時のことだった。

電話連絡もなく、突然、50歳前後の男性が事務所に訪問をする。


面談は文次郎が行う。


その男性の容姿は背は高く、痩せているが筋肉質で、紳士的な服装をしており女性にもてそうな感じであった。


文次郎はソファに座り、話を促すとその男性は言いづらそうに話を始める。

ある女性の住所の特定と行動を確認してほしいとのことであった。

その女性は新宿歌舞伎町の風俗店に勤務する20前半の女性である。


女性の勤務する風俗店で知り合った。

話が盛り上がり男性は1週間に2回のペースで通い詰めていた。

男性を舞い上がらせたのは店には内緒で連絡先を交換し、食事に行ったことで個人的に仲が良くなったことであった。

しかし、ここ数日連絡が取れなくなっており店に行っても指名が出来ない。


そこで、当事務所に相談をしに来たわけである。

依頼内容は女性の住所確認と勤務外に他の男性との接触がないかの確認であった。


男性は自身の携帯電話に保存してある画像を文次郎に見せると、男性と一緒に20代の綺麗な女性が楽しそうに写っていた。


文次郎には違和感があった。

数回の食事をしたことで男性は女性と交際していると思っているのだろう、彼の会話の中でその事が伝わってくる。

この男性と女性が交際している確証はなく、ストーカー(付きまとい)行為がなされる可能性を否定できない、文次郎は何度も男性にそういった行為や犯罪に繋がる行為が目的ではない事の確認をした。


不審に思っている文次郎に男性は名刺を渡し、身元を明かして信用してもらえるように語りかけた。

名刺には北陸地方の「医療法人○○会△△病院」「医院長×× ××」と記載されていた。


北陸地方からなぜこの新橋に在る事務所を選択したのか文次郎にはわからなかった。


平成18年に探偵業法が施行される前であったが、念のため書面を取って犯罪行為に使用されないことの確約書に記入をしてもらう。

この男性が犯罪を犯した場合、文次郎も加担したとして警察の御厄介になる可能性は十分あるためである。


文次郎は契約書の説明を行い、男性は契約書に目を通すと契約書の記載事を記入する。

記載内容には、不審な点があればこちらの事務所から契約を解除することも明記してある。



男性が事務所を出た後、文次郎はこの病院について確認を行った。

調べてみると、北陸地方にある中規模な総合病院であった。

男性の父親である前医院長が開業、数年前に男性が同医院を引き継いだようだ。

ホームページを確認すると医院長として顔の画像も確認し、身元は確認できた。


数日後、まずは女性の居住地を確認するべく、女性の勤務する店へと張り込みを行う。

女性の勤務する店舗型ヘルスに連絡を取り、女性の出勤も確認済みであった。

張り込みしている最中は男性の呼び込みがしつこく付きまとうのを追い払い、ヘルスが所在するビルの出入口をじっと見つめる。


日付が変わり1時間ほど経過すると、小柄な対象女性が同ビル出入口から出てくる。

対象者女性が出てくればこちらのものとばかりに調査員のタケが追跡をする。

女性は大通りに出るとタクシーに乗車、タケと文次郎もタクシーに乗車して追跡をする。

新宿区若松町付近でタクシーを降車すると、コンビニに入る。

弁当や飲み物を購入後に同店を出ると数十メートル先のマンションへと入る。


10日の間に4回同調査を行うが、女性が他の男性との接触などは無く、自宅から勤務先の往復が主で。夜の2時には帰宅していた。

無論、女性の部屋番号も判明させていた。



調査がある程度終了したので男性に連絡したものの連絡が取れない。

文次郎は男性から調査料金の未払いがあるため、何度も連絡を試みるが電話がつながらない。


数日後、テレビのニュースで男性が逮捕されたと報道があり、文次郎は驚いた。

男性は女性宅マンションの非常階段から侵入して女性を待ち伏せしたらしく、男性は帰宅後の女性と口論の末、暴力を振ってしまい、女性が警察に連絡して不法侵入及び暴行の現行犯で逮捕された。


数日間、世間を騒がせたこの事件は地方の病院医院長が風俗嬢に入れ込んだ挙句に犯罪を犯してしまうというワイドショーや雑誌記者の格好のネタであった。


しかし、文次郎は男性に女性の住所すら報告していないのにと思ったが、何となく男性の行動が想像できた。

男性は当事務所に依頼はしたものの、日にちが経つにつれて我慢できなくなり結局自身で女性を尾行して住所を判明させ、その後前述のような犯行を犯した。


男性には妻も子供も居たらしい。

勿論、地方の病院の医院長として続けて行く事は無理だろう。

家族、地位や名声まで捨てて、何故、そこまで風俗嬢に入れ込んだしまったのだろう。



数週間後に文次郎に男性から連絡があったが、散々他で聞かれているだろうと男性に経緯経過は聞かなかった。

それよりも、文次郎は男性から調査料金の未払金を口座に入金してもらい、不安は無くなり満足気であった。







この物語は一部の事実を元にしたフィクションであり登場する人物、団体名等、名称は実在するものとは関係ありません。

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